前回記事、映画「この世界の片隅に」から学べること1 の続きですので、未読の方は先に1を読んでからコチラをご覧ください。
映画「この世界の片隅に」の公開から、約2年半がたち、いよいよ今日、NHK総合でテレビ放映がされるそうです。
そして、今年の年末には前作に収録できなかった新規場面を付け足した別バージョンとなる この世界の(さらにいくつもの)片隅に が公開される予定になっています。
異例のヒットをした「この世界の片隅に」ですが、前回のブログでは、
登山ガイドとして「伝える」ことを生業にしている私が一番注目し、見習いたいと思った
と書きました。
このことについて、まだ上手く説明しきれていなかったので、書いておきたいと思います。
「何もしゃべらないガイドを目指したい」
自分自身のガイドとして目指していることと、「この世界の片隅に」の表現手法に感じた共通点について、順を追って説明して行きたいと思います。
私自身が登山ガイドの資格を取得する前、エコツアーガイドとしての講習を受けた経歴があります。
その際、日本におけるインタープリテーション(自然解説)の先駆者、小林毅氏から直接指導を受けたことがあります。
この小林さんが究極的な目標として、「何もしゃべらないガイド」があってもいいのではないかと話をしていたのが強く印象に残り、大いに共感したことを覚えています。
私自身も、ガイドツアーに参加した1人1人の、興味と関心を引き出し、疑問を感じたり、発見をしたりすること大切にしたいと考えています。
例えば、ガイド中に花を発見したら、すかさず花の名前や特徴、名前の由来を参加者の皆さんに解説するのだけがガイドの役割なのでしょうか?
そうではなくて、私は出来る限り、参加者の方か花に気づき、話題にしたり、質問をされるまで待つようにしています。
質問を受けたら、その内容だけに簡潔に答え、まず最初の情報提供は最低限に留めます。
その代わりに、クイズを出したり、何か疑問点を投げかける。
それぞれが観察したり、考えてもらう時間が何より豊かな自然体験になると考えています。
なかなか簡単に出来ることでもなく、自分自身もまだまだ模索中です。
「この世界の片隅に」と並べて語るのも烏滸がましいのですが、こうした伝え方をつきつめていきたいと考えています。
持っている知識を安易に語らない
ガイドは自然が好きで、一般の方よりも豊富な知識を持っているのが当たり前です。
その知識をもとに、たくさん話をし、解説をすれば、それを聞いて喜んで頂ける方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは自宅に帰って図鑑やインターネットで調べることでも得られる情報です。
逆に見ると、ガイドが話し過ぎることで、一人一人がそうやって興味を持って調べる時間を奪ってしまうことにもなるのです。
また、今は携帯電話の電波さえ通じればその場でGoogle検索が出来ますし、最近は花の名前を教えてくれるアプリも出てきました。
個人的にはガイドが最新の注意を払うべきは、情報提供ではなく感動提供だと考えます。
何に感動するか、何に興味を持つか、何を好きになるかは人それぞれ。
さらに掘り下げて調べてみようと思う内容も、人それぞれでいいと思います。
細かいことなのかもしれませんが、ガイドツアーに参加した皆さんに「どう楽しんでもらうか?」が、ガイドツアーのプロデューサーであり、ディレクターであるガイドの役割だと考えています。
もちろん、登山では安全に関わることや登山技術など、伝えなければならないこともあるので、それは積極的に、おせっかいなくらい指導します。
しかし、自然解説については多くを語らない。
この2つを明確分けて考えています。
「この世界の片隅に」のすずさんは多くを語っていない
映画の中では、すずさんの日常がたんたんと描かれ、すずさんは自分自身の個人的なことしかほとんど語っていません。
イデオロギーや戦争に関することもほとんど語っていません。
状況を説明するナレーションもありません。
それでも、この映画を見た多くの方は、すずさんに親近感を頂き、自分のことのように感じたり、70年前の日本が身近に感じられたりします。
映画を見たことで頂く感想は人それぞれ。
それで良いのではないでしょうか
見た人が色々な受け止め方が出来る、限定的に狭められない表現を行ったことで、この映画が幅広い年齢層に受け入れられ、ヒットにつながったのではないかと思います。
さて、あなたはこの映画を見て、どんな感想を抱きましたか?
この世界の(さらにいくつもの)片隅に の公開が楽しみです。