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週末を挟んで、Aさんの友人の方が有志で捜索に入りたいとの連絡を受け、関係者の方、駐日スロバキア大使館のスタッフの方と連絡をとったり、山岳救助隊の担当者の方から捜索状況をお聞きしたりしていました。

行方不明のBさんに関する捜索活動ですが、昨日5/27を持って陸上の捜索は終了。
後は天気が良い時にヘリを飛ばしての捜索が続く模様です。
かなり広範囲で山岳救助隊が捜索したと聞いていますので、これだけ探して発見されないのは本当に残念です。

遠い異国の地で行方不明。
ご家族の気持ちを考えると、何か力になれたらと思いますが、なすすべがないことが、本当にやり切れません。

 

「積雪期富士山での遭難防止について」

今回、このような悲しい事故が起こってしまいましたが、その前にも日食観測をしようとして軽装で山頂に上がり、山岳救助隊に助けられた登山者がいました。

積雪期の富士山は毎年のように事故が繰り返されており、これは外国人登山者だけでなく、日本人登山者も事故を起こしています。
登山のエキスパートの方が事故に遭うケースもありますが、今回の事故のように、軽装備で登山した結果の事故、すなわち明らかに防ぐことができたものもあります。

今日は、積雪期の富士山遭難事故の中でも、軽装備の登山者の事故ついて、考えてみたいと思います。

【軽装備の外国人登山者】

外国人登山者が軽装備で遭難する要素として個人的には以下の二つがポイントになっていると思います。

  1. ヨーロッパ・アルプスと比べて、富士山の標高が低いこと。日本が島国であるため、険しい山というイメージが少ない。

  2. 旅行者向けのガイドブックには、7-8月の登山シーズンのことしか書いていない(たぶん)

要するに、「富士山をナメている」わけです。
これは何も積雪期に限らず、夏の登山シーズンでもそうです。

夏であればどうにか遭難せずに下りてくることが出来てしまうのです。
しかし、積雪期だと、もちろん軽装での登山は致命的な事故に繋がります。

このような状況について、事前に出来る対策は、外国人旅行者に対して注意喚起をするしかないのかなと思っています。

【外国人・日本人登山者に共通する問題】

まず最初に、登山口に「通行禁止」と書いてありますが、そもそも周囲は雪に埋もれていて、どこが登山道か分かりません。
雪山を登るときは登山道など当てにせずに登るわけですから、そもそも雪の上を歩くつもりでやってきた登山者にしてみれば、登山道の「通行禁止」が何を意味するのか分かりません。

次に「スキー・スノーボード禁止」と書いてあります。
しかし、実際には、登山口で山支度をしている人のほとんどがスキーヤーとスノーボーダーなわけです・・・

このような状況では、初めて積雪期の富士登山にきた人は、禁止されているスキー・スノーボーダーですら入山しているのだから、登山者が入山するのは全く問題ないのではないかと感じても不思議ではありません。
「歩くのは登山道ではなく雪の上なのだから、通行禁止など関係ない」・・・と。

登山口にはバリケードがされていて、色々な注意喚起が列挙されていますが、結局、具体的に何が禁止なのか?そして、何が危険で、なぜ入山してはいけないのか、分かりにくいのです。

そうして、「何が危険なのか?」を認識していない登山者が雪の富士山に入って行ってしまいます。

ゴールデンウィークなどは登山口に観光に訪れる人も多いので、登山口のバリケードの前に立って、「ここから先を登る場合は自己責任でお願いします」などと声をかけている監視員(?)さんの姿が見られます。

ただ、私が思うのは「自己責任だからいいのか?」ということです。

私が思うに、積雪期の富士山は、アイゼン、ピッケル、ヘルメットを持たない人は入山する資格がそもそもありません。
事故責任と言っても、結局、事故が起これば警察が救助、捜索に入るわけです。
使い方云々は置いておいて、そもそも事故を防ぐ最低限の装備を持っていない、なんて話になりません。

「この3点を持っていないと致命的な事故を起こす」
ということを登山口で徹底的に注意喚起できるよう、看板に明記すべきだと私は思います。

【「通行禁止」について】

fujinomiya-stop1.JPG
富士宮口新5合目、登山口バリケード前の看板

このブログを警察や行政関係の方も読んでいるかもしれませんが、今回の事故を機に、私の考えを明確にしておきます。

「通行禁止」と言っても、富士山では5月になるとスカイラインが開通するため登りやすくなり、毎日毎日登山者が登るようになります。
インターネットで情報共有される時代ですから、この時期に登った人の記事だけでもたくさんあるでしょう。
天気のいい土日となったら100人以上が登っています。

このような状況の中で、建前としての「通行禁止」を掲げることに、何か意味があるのでしょうか?
しかも、日本語以外の、英語、中国語、ハングル語では、日本語では書かれている「3 理由」が書かれていません。

最も情報が不足している外国人の登山者に、正確な情報が伝わらないじゃないですか!

私は、この「通行禁止」の表示は、遭難事故の防止として十分だとは思いません。
行政的には、これで立ち入りを抑制しているつもりなのかもしれません。
確かに観光ついでに、ちょっと立ち入って写真を撮ろうというような観光客の立ち入りは制限できているかもしれません。

それにしても、「通行禁止」という言葉は、あくまでも登山道の管理者サイドが状況を説明するために使用しているものです。
「富士山に登りたい」と思っている人に、「通行禁止」は現状が正確に伝わる言葉ではありません。
もっと踏み込んだ形で、遭難防止の取り組みが必要だと思います。
その一つが先に挙げた登山口での注意喚起の方法です。

さらに言うと、気象条件によってはアイゼンの爪がほとんど刺さらないほどのアイスバーンになること。
要するに、雪の斜面ではなく、ツルツルの氷の斜面(=滑り台)になることを絵や写真などで明示するのです。

「そこまでしないと分からないのか?」
と思う方もいるかもしれません。
でも、そこまでしないと分からない登山者だからこそ、軽装で入山して事故を起こすのだと思います。

また、事故が起こった際に、必ず「登山届が提出されていなかった」といって、問題になります。
しかし、そもそも登山届を提出するほどの登山者なら、事故を起こしにくいのです。

既存の事故防止対策に、限界があることは明確です。
もちろん、事故は起こした当事者に問題があります。
ですが、同じような事故が繰り返されるのであれば、地元を中心としてさらに積極的な事故防止への取り組みが必要なのではないかと思います。

私は、縁あって富士山との強いつながりの中で生きています。
年間を通して、富士山に通っている立場として、今後とも可能な提言をしていけたらと思っています。


★追記情報(2014/03/26)

Nature Guide LISでは、アイゼン・ピッケルを使って残雪期に登るガイドツアーを少人数制で実施することにしました。夏には出会えない雪の時期の美しい光景に出会いたい方、特別な富士山体験にチャレンジしてみたい方、ぜひお待ちしております。

詳しくはこちら ⇒ 「残雪の富士山登頂 と 雪上技術訓練」


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