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「3点支持」という登山用語、皆さん聞いたことがあると思います
両手・両足の4点のうち、3点で体を支えて、常に動作時は1点のみを動かす
岩場などの危険個所を行動する時の原則として登山では古くから使われてる言葉です

英語では「Three points of contact」と呼ばれるようです
少し調べてみたところ、登山クライミングの世界だけでなく、工事現場などでの労働災害を防ぐためにも使われています

たしかに、人間は慣れてしまう環境だと3点支持ではなく、2点支持の状態で動いてしまうということはありそうです
例えば梯子の上り下りに慣れている人が、2点支持で行動してしまって足をひっかけて滑落してしまうケースなど、3点支持が出来ていないことでリスクが高まることは登山以外のシチュエーションでも起こることです

こうした背景から、登山界では危険個所での行動原則として3点支持が推奨されるようになったのだと思います

 

ただ、私は岩場歩き基礎講習などで、危険個所での登山行動を指導する機会が多いですが、そうした場面で「3点支持で行動しましょう」と言って指導することは一切ありません
ガイドを始めたばかりの頃はもしかしたら言っていたかもしれませんが、「岩場歩き基礎講習」を初めてもう9年ほど経ちますが、この講習の中で3点支持という言葉で指導はしていません
私が指導する範囲内においては、「3点支持」という言葉を使う必要がないと考えているからです

なぜ「3点支持」という言葉を使わないのか。

言われなくても大半の人は危険個所で3点支持で行動出来ているからです。

今までの指導の経験上、分かったことは、岩場の行動が苦手なのは「3点支持が出来ていないから」ではない
多くの人が、躓いてしまうポイントは別にあるのです

岩場の身のこなしが上手い人と、下手な人で、どの動作に差があるのかを、具体的に指導しています
そうした動作と、技術的な話を一つ一つ解説することを優先しています
なので、3点支持のような当たり前のことをわざわざ説明する時間がもったいないので、話題にしていないのです

岩場ではどんな技術が必要なのか?

岩場などの危険個所を行動する時、登り・トラバース(斜面の横移動)、下りと大きく分けて3つのシチュエーションが存在します
皆さん経験があると思いますが、登りよりも下りの方が怖さを感じやすいです

そして、それは斜面の下が見えてしまうことによる視覚的・心理的な効果で行動が難しくなるだけでなく、技術的にも難易度は登り<トレバース<下りという順番で難しくなります
クライミングの岩場なら話は別ですが、一般登山道の中にある岩場ということになると、「登るのが困難」ということはほとんどありません。
下りの行動こそが、肝なのです

例えば、同じ高さの岩の段差の箇所を通過するとして、登りでは何の問題もなく足を上げて登れたとしても、下りでは上手く足を延ばして届かせられない、ということが起こります

こうした現象は、決して手足の短い小柄な方だけに起こることではなく、大柄な方にでも起こります
だからこそ、岩場の下りは技術的難易度が高いのです

「クライムダウン」こそが岩場歩きの必須技術

岩場を後ろ向きになって下りる動作を、「クライムダウン」と呼びます
こうしたクライムダウンの動作は、体得する方法を分かりやすく説明した技術書やYoutube動画などを見たことがありません

そのため、私自身、最初に講習を始めた時は手探りで指導を始めました
そもそも、普通の登山道では後ろ向きになって歩くこともないですし、後ろ向きで行動することに慣れる必要があります
ただ、見よう見まねで「慣れよう」としても、コツが分からないと足場が見えにくかったり、かえって怖い行動になってしまうものです

また、後ろ向きになっても、腕の力に頼って、無理やり足を延ばしている強引な下り方をする方をたまに目にします
そういう方は、長いクライムダウンが続くと疲れてしまうことと、強引に足を延ばしているので、浮石を踏んだり、ヒビの入った岩に足をかけてしまい、落石を起こしたり、リスクが高い下り方をしています

運動神経の良い人は、岩場での経験を積むうちになんとなく技術的なコツをつかんでいく人もいるとは思います
しかし、岩場が苦手な人ほど、具体的な動作を教わり、反復して練習しないと上達は難しいです

なので、是非、苦手な方は岩場歩き基礎講習にご参加いただければと思います

 

LISの岩場歩き基礎講習は一般の方はいきなり申し込めません
山の歩き方講習会に参加した人だけが参加できるように、参加条件を設けています

たぶん、こうした条件を設けない方が、参加者数も増えて事業者としては儲かるのだと思いますが😅、講習の質と成果という視点で考えると条件を設けるべきだと考えて、こうしているのです

歩き方講習で基礎的な歩き方と同時に「重心」という概念を理解した上でこそ、岩場での合理的な体の使い方も体得しやすい
指導者としては、そう考えています

 

うちと同じように、十二ヶ岳で講習を行っているガイドツアーがあるようですが、参加人数が多いツアーは岩場をただ通過するだけで、具体的な技術指導はしてくれないでしょうし、反復して同じ岩場で練習することもないでしょう

LISは定員4名で開催していますし、講習資料も分かりやすいと評判です。
講習内容の充実度ではどこにも負けないはずなので、是非ご参加をお待ちしています

 

なんだ、このブログで少しはクライムダウンのコツを教えてくれるんじゃないのかと思った皆さん
ごめんなさい
申し訳ないですが、講習会にお金を払って参加してくださっている方々がいらっしゃるので、この場で無料で教えるということは出来ないのです

ただの講習の宣伝記事みたいになってしまいましたが、それだけ「3点支持」という言葉にあまり意味がないのだということを伝えたかったのです

ロープに頼らずに、足場とホールドを探してクライムダウンする様子

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