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疲労解消法(3) 水分不足による疲労への対処

夏季の急激な発汗に注意

登山に限らず、長時間の有酸素運動(マラソン、サッカーなど)に慣れている方は、運動中に適切な水分補給を行う経験を持っています。
その反面、このような経験が少ない方ほど、登山時に脱水状態になりやすいと言えます。

私の経験では、運動経験がある方であっても、直近が運動不足だったり、エアコンに慣れてしまって日常生活で汗をかく習慣がないと、適度な発汗が出来ない体になっているのだと思います。

他の疲労症状と同様に、なるべく早い段階で気付くことが重要です。
しかし、夏山の猛暑日でなおかつ風が無い場合など特殊な条件下では、体温が急激に上昇し、大量に発汗するケースがあり、症状が急速に悪化するため、特に注意が必要です。

脱水症状の自覚が遅れる要素

  1.  化繊の速乾性のウェアを着ていると、大量の汗をかいていても、不快感を感じにくいこと。
  2.  「発汗をともなう運動経験が少ない」OR「同じような気温下での登山経験がない」など、その場の発汗が多いか少ないかを判断する(比較する)経験を持っていないこと。

1の要素については、速乾性素材のウェアが高い機能性を持っていることの証明でもあります。
しかし、登山経験が乏しいと、ウェアだけはどんどん吸湿速乾をして、それに登山者の水分補給が追いつかない状況になるということです。
そして、ウェアがどんどん乾いていくので、自分自身の発汗量を自覚しにくくなってしまうのです。

2の要素でも共通することですが、どんなにウェアが優秀であっても、発汗を抑えられるように必要以上に重ね着をしないことが大事です。
せっかく速乾性のウェアを着ているのに、長袖Tシャツの上に半袖Tシャツの重ね着をしてませんか?
ファッションのためには重要なことなのかもしれませんが、速乾性のシャツでも重ね着すれば熱が籠るので、必要以上に汗をかきやすくなります。
また、必要に応じて小まめにウェアの調整を行うことで、発汗量を抑えることが出来ます。

自分自身の発汗量を上手に把握するには知識と経験が必要です。
そのため、初心者や経験が浅い方ほど脱水症状への自覚が遅れがちになる、と言えます。

不足するのは水分だけではない(ミネラル分の補給)

近年は、市街地においても夏場の熱中症患者が増えました。

そのために、おそらく大半の方がご存じだと思います。
大量に発汗した際には、水分だけではなくミネラル分も失われています。

脱水状態を予防し、解消をする方法は大きく二つ。
水分を補給することと同時に、やはり注意すべきは塩分・ミネラル分の補給です。

最近では熱中症対策用の、塩分入りの飴が販売されていますので、これも携帯に便利です。
また、夏場は塩分を含む行動食をとることが重要となります。

私は夏山ガイド時には必ず、粉末のスポーツドリンクの素を携行しています。
粉末からスポーツドリンクを作れるため、粉末の量と水の量を調整することで摂取するミネラル分を調整することができるので便利です。
特に、大量の発汗をする中で、ナトリウムを補給しないまま、水分のみを補給していると「水中毒」という症状になる場合があります。

補給する飲み物は水かスポーツドリンクがいいですが、水の場合は、しっかりと塩分・ミネラル分を補給するために飴やタブレットで補給しましょう。

水分摂取量の目安量

自重(kg) × 行動時間(h) × 5  = 登山中に必要な水分量(ml)

鹿屋体育大学・山本正嘉教授が提唱している水分補給の目安を図る計算式です。

自重は自分自身の体重と荷重を足した重さです。
これに×5をすれば、1時間あたりに必要な水分量が分かります。

「×5」となっている行動係数は、気温や運動強度、個人差によって前後する部分です。

私の場合や冬山登山だと「×3」しか飲んでない時があります。「×4」程度が普通、「×5」はかなり暑いときです。
私は他の方と比べると汗はあまりかかない方ですので、汗を多くかく方は、「×6」以上必要になることがあるかもしれません。

登山中の食事で摂取する水分もあると思いますし、下山直後に炭酸飲料を一気飲みすることもあるかもしれません。
いずれにしても登山開始から、登山終了直後までに、自分自身がどの程度水分を補給するのが理想的なのか、「自分の数字」を把握することが重要です。

水分を補給しやすくする工夫を

大量に発汗する時は糖濃度が3%以下の飲料が吸収されやすいです。
真夏など熱中症、脱水症が気になる季節は糖濃度に注意して用意しましょう。
スポーツドリンクなどはボトルの成分表示で糖分・炭水化物の含有量を確認しましょう。

市販のスポーツドリンクは6%程度の糖分濃度のものが多いです。
そのため、スポーツドリンクと水を1:1で割ったものを飲むか、両者を交互に飲むのがオススメです。

寒い季節は冷たいものは飲みにくくなるので、保温水筒に暖かい飲み物を、暑い時期は氷入りの冷たい飲料を用意すると水分補給がしやすくします。
また、行動中に十分な量が飲めなかった場合は、山小屋到着後や下山直後など、行動終了後に素早く水分補給を行うようにしましょう。

緑茶、紅茶、コーヒーなど、カフェインが含まれる飲み物は利尿効果がありますので、行動中は脱水になってしまう可能性があるので、適しません。

ただし、行動中に十分に水分がとれていた場合は、行動終了後に飲むことで、利尿作用から疲れが抜けやすくなります。
もちろん、適量のアルコールもOKですが、ただし脱水状態で飲むのは体に負担をかけますし、飲酒後に水分補給を行うことが重要です。

こむら返り、立ちくらみ、むくみ、排尿が減る、食欲減退は最初のサイン

熱中症、脱水症の初期症状がこれらです。
特に、こむら返りは単に「筋肉疲労」と判断されて、熱中症(脱水状態)に気づかずにさらに症状が悪化させる原因となってしまいます。
筋肉の硬直、筋肉痛は「熱痙攣」とも言われる状態です。

このような症状が見られたら、出来るだけ風通しの良い日陰で休息をとり、首筋や脇の下に水筒を当てたり、濡れタオルを当て、体幹部の熱を下げる必要があります。
そして、水分と同時に汗で奪われたミネラル分を摂取しましょう。
また休んでも症状が改善しない場合は、その場で登山を中止しましょう。

熱中症(脱水症)が悪化すると、命にもかかわる危険な状態を招きます。
また、疲労が抜けないため、通常のペースで行動することは困難です。
すぐに救助が駆けつけることが出来ない山の中では、安易な行動は慎むべきです。

ちなみに、熱中症は中程度まで進行すると、強い疲労感、倦怠感、虚脱感、めまい、頭痛、気分の不快、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢などの症状として現れます。
このような状態になるまで登山を継続していることはまずないと思いますが、覚えておくといいでしょう。

また、登山後や翌日の筋肉痛や疲労感が「脱水」が原因になっている可能性もあります。
ご自身の体に最適な水分補給量の目安を、ご自身で見つけ出して頂くことが重要です。

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