それは、9月に放送されたNHK-BSプレミアム「にっぽん百名山」のロケ中の出来事でした。
ちょうどその日は、宝永火口入口から宝永山荘(富士宮6合)に至る宝永遊歩道を歩くシーンを撮影していました。
私は出演者でしたので、直前に撮影した内容を確認するためモニターでカメラチェックをしていました。
宝永山荘まで歩いて2-3分の距離の場所に、ディレクターさん、カメラさん、音声さんと一緒でした。
その時、背後(宝永火口方面)から女性の大きな悲鳴が聞こえたのでした。
声のした方を見ると、何かが岩場を落ちていくのが見えました。
何かが起こったことは確実です。
次の瞬間には走り出していました。
普段私はトレイルランニングをしません。
なので、あそこまで全速力で山を走ったのは初めてです。
わずかな距離でしたが、「やっぱり富士山の6合目、全速力で走ると空気が薄いな」と感じたのを覚えています。
ちょうど私たちが撮影を行っている後方では、撮影のサポート部隊が待機していました。
撮影機材などを背負う歩荷(ぼっか)スタッフが4名、うち普段ガイドをしている者が2名でした。
4名中の3名のスタッフは待機場所から何も見えなかったのか、まだ何が起こったのか分からずにいました。
その3名の前を駆け抜けて、とにかく聞いたことがないような、大きな悲鳴がする方へとひた走りました。
声の元へと駆けつけると、そこには女性二人と、歩荷スタッフのA(以下、A)の3人がいました。
悲鳴を上げていたのは女性のうちのお一人でした。
この女性が気が動転しながらも、滑落した方(以下、要救助者)を助けに行きたいと訴えていました。
そして、いち早く駆けつけたAが、この女性に「危険だから、まずは落ち着いて」引きとめているところでした。
どうやら、近くの岩場付近から滑落してしまったようでした。
女性の指さす方向を見て、おおよそ要救助者の居場所の検討はつきました。
登山道より数十メートル滑落しています。
富士山といえども、登山道を外れた場所で岩場が混ざった急斜面です。
普通の人が安全に下りていける場所ではありません。
今回のロケチームの中で、普段ガイドをしている人間は自分を含め3名いました。
しかし、機材搬送の関係上、ファーストエイド(救急)セットを携帯しているのは自分だけでした。
状況から少しでも早く要救助者の元に急行する必要を感じ、私がまず下りる決断をしました。
砂地の下りやすい場所を選んで一人で下降を開始しました。
現場の下部にも登山道があるため大きな落石を発生させないよう慎重に下ります。
また、真上から下りると落石を要救助者に当ててしまう可能性もあります。
回り込んで横から要救助者の元に近づきました。
要救助者は滑落のショックから錯乱状態になっていました。
最初の滑落の後も暴れたためにさらに転落をしていました。
初見で目に付いたのは、頭部を負傷し、頭部や口腔内からの出血。
山でこれほど重傷の方を目にしたのは初めてでした。
下手に動くとさらに転落してしまう場所なので、まずは落ち着いてもらえるよう話しかけました。
が、痛みとショックからか会話にならずに叫び続けています。
すると、登山道にいたAが私に続いて下りてきたので、二人がかりで体を支え、安定した状態に寝かせました。
岩場といっても富士山の6合目付近なので、現場は唐松の低木がわずかに生えています。
安定した場所に寝ていて、複数の救助者側がサポート出来るので、これ以上の転落の心配は少なくなりました。
偶然ながら滑落現場近くに私たちロケチームがいて、
さらに滑落直後数分以内に私とAが要救助者の元に到着できたこと、
が今回の滑落事故の被害を最低限に抑えられた要因だったと思います。
つづく
<ニュース記事より>
静岡新聞 記事が削除されていてリンクなし
17日午後0時45分ごろ、富士山富士宮口6合目付近で、下山していた富士宮市内の男子児童(11)が約30メートル滑落した。
頭を切る重傷を負ったとみられ、病院に搬送された。
富士宮署によると、男児は母親と祖母の3人で宝永山から帰る途中、岩場で遊び、転倒したという。
県警ヘリと山岳遭難救助隊、県消防ヘリが出動する騒ぎになった。
富士ニュース http://www.fuji-news.net/data/report/society/201308/0000002967.html
富士山登山道 小学生が滑落(2013-08-19 17:00)
17日午後0時40分ごろ、富士山富士宮口登山道6合目付近で、富士宮市在住の小学生男子(11)が滑落したと目撃者から110番通報があった。
富士宮署山岳遭難救助隊と県警航空隊ヘリコプター、消防防災ヘリコプターが出動し、児童をヘリコプターで吊り上げて救助し沼津市内の病院に搬送した。
重傷を負ったとみられる。
児童は母親と祖母の3人で登山中、登山道から30メートルほど滑落したという。