登山は大きな失敗をしてしまうと命に関わるので、死んだり重症を負わない程度の「小さな失敗」を経験するといい
そんな話を聞いたことはありませんか?
たしかに、小さな失敗を経験しておくことで、人はより大きな失敗について考えられるきっかけを得ることができます。
例えば、登山道でスリップして尻もちをついて転んでしまう。
誰でも経験のある「小さな失敗」だと思いますが、もしこれが「登山道の下が切れ落ちている急な登山道だったら?」
・・・と、より大きな失敗についてリアルに考えるきっかけにはなりますよね。
ただ、具体的に失敗をすることがどのように学びに活かされるのか、詳しく説明できますか?
じつは、最新の脳科学によると、失敗した直後は脳の働きが活発化すると言われています。
こちらはたまたま最近見たYoutubeの動画です、とても参考になったので興味のある方は全編ご覧になってもいいかもしれません。
(17分49秒から19分40秒あたりまでの部分が、まさにこのことに触れています)
この動画は子育て論の中で、「失敗から学ぶ」ということに触れています。
ただ、これは何も子どもだけに限ったことではなく、大人でも同じことが言えます。
また、失敗が学びにつながると言っても、単に失敗をすれば良いというワケではなく、直後に本人や周囲がどう対応するかが重要だということになります。
岩場歩き基礎講習で伝えていること
岩場歩き基礎講習では当然ながら岩場が苦手、経験が浅い、動作が遅いという方々が参加されます。
そのため、普段の登山では苦手な岩場で
「先輩について行こうと思って普段は必死になっている」
とか
「とにかく遅れないように気を付けながら、どうやったらうまく行動できるのか迷いつつ行動している」
というような話を良く耳にするのです。
確かに、岩場が苦手な人は、得意な人に比べると間違った判断や動作が多いです。
それらの間違い(失敗)について、直後に考える機会を持たずに、どんどんと先に進んで行ってしまうと、それは失敗をスルー(先送り)していることになります。
上手く動かなかったという漠然とした記憶が残るだけで、時間が経ってしまうと記憶が薄れていきます。
失敗から学ぶという上では、時間が経つほどに学習効果が薄れて効率が悪くなってしまうのです。
私は、講習の中でこれまでも、「上手く行動できなかった岩場は出来れば再トライするくらいの時間にゆとりをもって行動しましょう」と勧めてきました。
また、時間がかかってもいいから、ゆっくりでいいから、しっかり見て、判断して、動かして、間違ったと思ったらその場で修正しましょう。
とにかくゆっくり動きながら、復習しながら岩場に慣れることが上達につながると説明してきました。
こうした私自身の指導論はあくまでも私の経験則と直感に基づいて行ってきたのですが、先のYoutube動画のように脳科学に基づいた情報を知ると、実は理にかなっていたことを最近知りました。
失敗したことで分泌される神経伝達物質の「ドーパミン」
これが出ているその場で、自分の失敗について考えたり、即座にアドバイスを聴いたり、学びの機会を得られるかどうかがやはり大事なんですね。
自分自身が行ってきた講習内容が、結果的に質の高い失敗体験につながっていたとは!
自慢しても良いことなのかもしれません😁
今回は、私の岩場歩きの指導を例に出しましたが、他のスポーツでも同じように、新しい身体技術を手に入れようという場面では時間にゆとりをもって、その場ですぐに自分の失敗を顧みる余裕を持つことが重要だと言えると思います。
失敗した直後に、具体的にどうすべきだったのか、どこが間違いの原因だったのか、どうしたら改善できるのか、じっくり考えて学んでから次の行動につなげる。
自分で復習したり、経験や技術が優れた人にその場でアドバイスを受けたり、失敗した直後にそのことを真正面から受け止めて向き合うことがより質の高い学びになるわけです。
こうしたことに注目したのは、もう一つ理由があって12月19日(火)にNHKで放送された落合陽一さんの「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見たことも影響しています。
落合氏の発言で印象に残った言葉を羅列します。
「間違えることを楽しまないと」
「自信満々に間違えるって すごい大切」
「可能性が封鎖されているから 自信満々に間違えないと」
間違えるから可能性が開く
そうした言葉が印象に残っていて、その直後に開催した講習会はとても新鮮な気持ちになれました。
失敗することは実は楽しい
成長の過程、社会に適応していく中で、人は失敗した時に笑われたり、叱責されたり、評価を落とすなどの経験をします。
その中で、失敗を恥ずかしいこと、避けるべきこととして認識するようになっていく傾向があるのではないかと思います。
しかし、本来、人間は失敗をするとドーパミンを分泌し、快感や多幸感、意欲を得ることで失敗に向き合いやすいよう、環境を作っていることも事実なのです。
確かに、うちの息子でも思い当たるふしがあります。
息子は普段野球をやっていないのですが、たまにバッティングセンターに行くのが好きです。
お世辞にも上手とは言えないですし、たまにしかヒット性の当たりが出せないのにも関わらず、実に楽しそうにバッティングします。
自分でも上手く出来ているという自覚はないと思います。
ただただ、挑戦することが大好き、体を動かすのが好きなのだと思っていたのですが、よくよく考えると失敗することも含めて楽しめているのかもしれません。
当然ながらうちの子がそうしてバッティングに取り組みたいと思えるのは、上手く出来ないことを笑われたり、叱責されるというネガティブな評価を受けたことがないからではあります。
そう考えると、失敗を責めない、笑わない文化ってとても大事だなと思うのです。
少なくとも、自分が主催するガイドツアーや講習会では、そうした文化を意識して作ってきたつもりです。
それは接客業として当然なことだと思っていましたが、同時に山を学ぶ環境としても、とても大切なことなのですね。
「失敗を楽しむ」
今後のLISの講習会ではこれを最重要テーマにしていきたいです。
失敗を一緒に楽しめる仲間を増やしていきましょうね。