Pocket
LINEで送る

こちらのAERAの記事を拝見しての、私見を備忘録として書き記しておきます

記事でコメントされている、西穂山荘さんのSNS投稿もその前に拝見していました

 

最初に前置きしておくと、今回のような山小屋関係者やガイドが、現場で目にして感じた危機感を元に注意喚起を行うことは、とても重要なことです

ただ、こうした注意喚起を元にした上で、さらに客観的な分析が必要ではないかと感じました
今日はそのことについて、触れておきたいので文にまとめておきます

まずは上記のAERAの記事を読んだうえで、以下の私の意見もご笑覧ください

 

「経験や技術が十分でない方が大勢やってきています」

目立つようになったのはここ数年ですが、今年は特にそういう人が多い印象です

記事の中で西穂山荘支配人の粟澤さんの言葉として、上記の言葉(抜粋)が出てきます

 

この印象というのは、北アルプスの穂高周辺をガイドする際に、私自身も近年感じていることで共感する部分があります

しかし、同時にそれは自分自身が年を取り、指導者としての責任ある立場になったから、より強く感じてしまう側面もあると理解しています
ガイドとして活動するうち、20代の若いころよりも山で慎重・確実な行動がとるようになった、安全への意識がより高まっているという自覚があります

また、粟澤さんのように遭難救助にあたる人や、私のように指導者として情報発信を行う人は、長年そのような地位にあれば、経験や技術が乏しい人を見抜く力が高まり、また磨きがかかっていくものです

つまり、「今どきの登山者は」的な老婆心も、そして、通りすがりの登山者の能力を見極める能力も、どちらもどんどん高まっていくものだと考えます

ですから、どうしてもこうした立場にある人の定性分析にバイアスがかかる可能性があります

たしかに、人の生死にかかわるテーマですから、より安全度が高まる方向にバイアスをかけることは悪いことではありません。
しかし、そのバイアスを出来る限り取り除いて分析することで、より実態を正確に理解できるのではないでしょうか?

 

山岳事故は定量分析に乏しい

これはどうしても仕方のないことなのですが、山岳事故については定量分析が十分にできません

今回の記事のケースで言うと、西穂-奥穂の縦走路に挑戦する登山者数自体に変動があるのか、特に単独登山者に変動はあるのか、などの数値データがありません

交通事故とは異なり、ルートごとの細かい統計データがないので定量分析に限界があることは皆さんもお分かりかと思います
そのため、詳細な数値の変化が分からない以上、遭難事故が多発する原因を分析することも難しいということが現状です

なので、どうしても定性分析に偏らざるをえないのですが、一つだけ私にも集めることが出来た定量データをお示しします

私が登山を始めた20代の頃(20年以上前)はジャンダルムはもっと知名度が低かったです
しかし、今では登山を始めたばかりの初心者の方からも「いつかはジャンダルムに登りたい」みたいな言葉を耳にします

こうした背景を深堀りしたくて、Googleトレンドで検索数を調べてみました
2004年以降の約20年間の「ジャンダルム」の検索数のグラフになります

2009年9月の急上昇の時の値が100として、グラフが作成されています。
この急上昇のタイミングはこの時発生した救助ヘリの墜落事故の結果です【参考】

その後、2017年から2022年頃に「ジャンダルム」という名前の競走馬が活躍し、徐々に検索数が伸びていきます
2017年と2022年の上昇トレンドは、この「ジャンダルム」がそれぞれGⅡとGⅠの重賞レースを買った時のものです

もしかすると、ジャンダルムという山の知名度が上がった影響の中には、何割か競走馬「ジャンダルム」の活躍の影響もあるかもしれません
いずれにしても、全体的にこの単語での検索数はゆるやかに上昇していることが分かると思います

現時点ではジャンダルムに登った人のSNS投稿やYoutube動画が多いです
ジャンダルムに登るためにバリエーションルートを登らなければならないにも関わらず、一般登山道と同じような情報量があります

それだけ山の知名度が増え、関心を持つ人も増え、登山者数も増えているのではないかと推測します

余談ですが、YAMAPやヤマレコ内で「ジャンダルム」の検索数の推移が分かると、もっと分かりやすい傾向が見られるような気がします

事故が増える要因は?

ここからは、上記のAERAの記事を読み、Googleトレンドを調べた上で私が考えた推論です

まず確率論の問題で、どうしても登山者数が増えれば事故も増えます

同時に、それがパーティを組んだ登山グループや、ガイドツアーが増えるよりも、単独登山者が増えればその分だけ事故率は高まります

山岳会に所属していたり、ガイド主催の講習などに参加すれば、アルパインクライミングを練習したり、セルフレスキュー技術を学んだりする機会があります
しかし、いつも単独でしか登山しない人はそうした学習機会から縁遠いことになります
そもそも、怪我をして歩行困難になってしまった場合、単独行動ではセルフレスキューは不可能になります

 

近年はSNSのフィルターバブルの影響が、人の価値観に影響を与えることが指摘されますが、これは何もオンライン上に留まる話ではありません
普段から単独登山をよく行う人は、同じ傾向がある人とSNSでつながり、そうした単独登山系のYoutubeを見る
山岳会に所属したり、ガイド登山に参加する人は、そうした人とSNSでつながり、例えば指導者・ガイド系のYoutubeを見る
SNSなどをどのように利用しているかで、登山を通じてリアルにどのような人と出会うか、人間関係も変わってきます

そもそもインターネット上の情報が玉石混交であることは周知の事実で、収集する情報の質を高めるべきであることは言うまでもありません
ただ、そうした情報収集の内容以上に、「人との出会い」が大きな影響をもたらすのではないでしょうか

  • 客観的な視点
  • 安全について深く考える

こうしたことはなかなか単独登山をしているだけでは得られにくい
より経験の豊かな人、知識を持った人と出会い、一緒に登山を行うことでしか得られない領域があります

こうした体験・機会の減少傾向が、事故が増えることに影響してはいないでしょうか?

 

どうも我田引水ぎみな話になってしまいましたが、別にガイドを利用しなくても、仲間を作ったり学ぶ機会を作ることは出来ます

ということで簡単に私見をまとめておきたかったので、今回はこんなところで

本当は今後ますますハイリスク行動をする登山者が増えるだろうという予測を持っているのですが、そのことはまた改めて書きます

写真は先日の穂高岳縦走3daysにて撮影、ザイテングラートの岩場を下りているところ

Pocket
LINEで送る