上の写真は拙著 山の快適歩行術 の第2章に掲載していた写真です
この本の元となった、山と溪谷オンラインでの連載記事の時点から、足首を屈曲させて「膝を前に出す」歩き方について解説をしてきました
こうして足関節の可動域を有効活用することで、登山は登りも下りも膝関節に負担が集中することを防ぎ、歩きやすくなることを講習会でも長年お伝えしてきました
そんな中で、何度となく頂いてきた質問があります
スクワットをする時は「膝をつま先から前に出さない」と聞いたことがあるのですが?
そうですよね。
それは私も聞いたことがあります。
しかし現時点では、「膝を前に出すな」は科学的に根拠がなく、むしろ膝を出さないように運動することで、かえって腰への負担が増加することが指摘されています
note『スクワットは膝を出すべき? 最新エビデンスで徹底解説!』をアップしました。
— 庵野拓将 (Takumasa Anno) (@takumasa39) April 30, 2025
スクワットで「膝をつま先より前に出す」ことは、トレーニング効果を高め、腰椎や股関節へのストレスを軽減するために有効であり、必要でさえあるというJCMのレビューをご紹介しています。https://t.co/QGFAfWROKR
このツイートを元に、私は以下のように見解を書きました👇
私の解説する「膝をつま先より前に出して段差を登る」という歩き方を理由に、間違った指導をしているという指摘を目にしたこともありました
— 野中径隆🏔「プロガイドの新提案 バテない登山技術」「山の快適歩行術」山と溪谷社📖 (@natureguidelis) April 30, 2025
確かに関節が硬かったり、既に関節に慢性的なトラブルを抱えている人には難しい動きかもしれません
それでも、人体が持つ機能を考えると必要な動きなのです
要するに、以前から言われていた「膝を前に出すな」は、私が中学生の時に部活で「水を飲むな」と言われていたことに近いと感じています
全く根拠がなかったわけではないですが、現時点では科学的に信用されていない論文が元になって「膝を前に出すな」という指導が普及していたのです。
「膝を前に出して良い」という科学的な裏付けが出るようになったのはここ数年です。
ただ、私自身はそれ以前から、膝を前に出した方が楽に歩けるという自分自身の経験を元に、最初は直感で「膝をつま先から前に出すな」は登山には当てはまらないと判断して、知見を深めてきました
もちろん、膝を前に出すことが膝に負担を与えるという科学的な情報が見つからなかったことも私を後押ししてくれました
たしかに、膝が前に出るスクワットと、前に出ないスクワットでは全身の姿勢が全く異なります
そのため、人によっては膝が前に出るスクワットが負担が大きいと感じる人もいるかもしれません
しかし、そもそもスクワットは大腿四頭筋だけを鍛える運動ではありません
ハムストリングス(大腿二頭筋)や殿筋群なども同時に使う運動ですので、そうした腿裏とお尻の筋肉が上手く使えない人にとっては大腿四頭筋への負担が大きく、運動後に膝が痛くなるということがあるかもしれません
ただ、それは体の使い方に問題があることが原因なのであって、膝が前に出ること自体に問題があるわけではないのです
余談ですが、ウエイトを使ったバーベルスクワットをするような場合は、自重よりもさらに大きな負担がかかるのであまり膝を前に出さない方が良いのかもしれません
(専門外なので詳しくはどのような指導をしているのか分からないです)
また、バレーボールやバスケットボール、サッカーなど、ジャンプを伴う動作を行うスポーツをしている人は、着地時に膝を前に出して着地すると膝に大きな負担がかかります
着地時にかなり大きな負荷が膝にかかり、膝の靭帯損傷などの怪我のリスクが高まります
そのため、一部の走る・飛ぶ系のスポーツでは膝を前に出す癖をつけないほうが良いという知見があるのかもしれません
しかし、トレイルランニングは例外として、登山で歩くという環境下では膝を前に出すことの弊害はありません
もちろん、すでに変形性膝関節症など、現時点で既に膝にトラブルがある方は、膝を前に出すことで膝が傷みやすいかもしれません
なので当たり前ですが、膝を前に出すことが絶対に問題がないというわけではありません
特に女性に多い「ニーイン動作」は膝を前に出そうとするほど、ニーインしやすくなります
こうしたエラー動作(ニーイン)が起こる人は、「ニーインせずに膝を前に出すスクワット」が出来るように動作を修正する必要があるわけです
こうしたエラー動作を改善する指導などは、既に山の歩き方講習会・足の能力UP講習会などで指導を行っています
結論として
スポーツや運動によって特性が異なるので、単純に「膝を前に出せ」「膝を前に出すな」で二分できる問題ではありません
そのため、各スポーツの特性を理解した専門家が持つ知見を参考にする必要があります
登山では「膝を前に出して良い」ですが、上手く「膝を前に出す」動作が出来るかどうかは人それぞれです
上手く動かせないのであれば、専門家に指導を仰ぐことをオススメします