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 「ニライカナイ」  飛行機は台風一過の青空へと飛び立つ。  眼下には青く輝く鹿児島湾と雄大な桜島が見える。とにかく素晴らしい。       やがて開聞岳の姿も見えてくる。窓からの眺めに釘付けとなり、夢中でカメラを向けていた。  初めて、低空を飛ぶ離島便に乗ったせいか、子どものように、窓から見える海原を見つめていた。       やがて洋上アルプスという言葉がふさわしい屋久島の姿が見えてくる。       そして、飛行機は屋久島の海岸線、照葉樹林をかすめるようにして空港に着陸する。  タラップを降りて屋久島第一歩を踏む。  屋久島の山々を眺めながら滑走路から空港ロビーに向かう。  4日分の思いがこみ上げてくる。  まだ屋久島に着いただけなのに、とても感傷的な気分になっている。  その後、バスに乗って宮ノ浦へ。  今回は10/21?24の3泊4日、野外学校のコースに参加することにしていた。  ガイドしてくれるのは、いつもお世話になっているマサ。  屋久島の沢に入るコースの案内を知って、今回の屋久島行きを決めたのだった。  さて、マサに連絡がつかない為、とりあえず18日に宿泊予定だった民宿晴耕雨読へ。  ご主人の長井三郎さんに挨拶をして中に入る。  長井さんとマサは親しいということもあり、厚意に甘えて荷物の整理をさせてもらう。  その後、荷物を置いて、軽装で宮ノ浦の町にくりだしてゆく。  マサおすすめの「かぼちゃ家(や)」で昼食の屋久島ラーメンを食べていると、今回のFOSに一緒に参加するアジコと糸ちゃんも屋久島空港に着いたとメールが入る。  二人がバスで、マサが車で、「かぼちゃ家」にやって来ることになる。  やがて二人が到着し、皆が食事を済ませた頃、マサが現れて、車で出発する。  今回は急遽四人目の参加者としてシンシアという女性が加わったことを聞く。  途中スーパーで買い物をして、湯泊の「杜の家」へ。  ここはマサが今回の屋久島滞在のベースにしているところで、まずは立ち寄ってご挨拶。  杜の家のせっちゃんとおじじ、そしてシンシアと挨拶をする。  この杜の家は宿泊できるハンモックステーションと、せっちゃんによるアロマリラクゼーションが受けられるリラクゼーション・スペースなのだ。  脇を流れる小川の音が心地よい。  お茶をご馳走になりながら、早速のんびりモードに突入しそうな所だが、今日からがFOSのスタートである。 続いて向かった先、大川の滝では滝壺から流れてくる風と水しぶきを全身で感じる。       次に涼しい滝壺から一転して、まだ暖かさが残る、日没直前の浜へ向かう。  マサを含めて五人、それぞれ思い思いの場所に一人で座り、夕日を眺める。       「屋久島は山だけではなく海も素晴らしいから」ということで今回は海から始まった。  30分ほどだろうか。太陽が水平線に消えていくのをただ見つめていた。  この島では晴れていればこのような美しい光景が毎日のように見える。  屋久島に限らず、沖縄などの島々では人の住む場所からは必ず海が見え、大概の場所で水平線からの日の出、日の入りが見える。  そんなことを考えていると、ふと「ニライカナイ」という言葉が頭をよぎる。  そうか、海と太陽の恵みがもたらされる場であれば、海の向こうに天国があるという琉球の「ニライカナイ」という思想が自然に理解できる。  今まで知識として理解はしていたが、この時に初めて、「ニライカナイ」が自分にも見えるような気がしたのだった。  美しい風景は、人に「祈り」にも似た感覚を与えてくれるような気がする。  この後は、キャンプの準備をする。  食事を作り、食事の後は月が水平線に沈むまでのんびりと過ごした。  月が沈むと満天の星空が広がり、天の川まで見える。  シュラフに入り、眠る前にじっくり星空を眺めようと、なんとなく、眼鏡をかけてみる。  すると今まで見えていた星空よりはるかにくっきりと、美しい星々が目の前に広がった。  大学に入ってパソコンを使うようになってから視力が少しづつ落ちて、現在両目で0.5くらい。  日常生活にはほとんど支障がないから車の運転以外では眼鏡をかけることはない。  自分の視力が落ちていることは分かっていたが、これほどまでとは思わなかった。  眼鏡をかけて見た夜空は、久しぶりに見ることができた美しい満天の星空で、不思議な感動を覚えながら眠りについた。  翌朝はのんびりと日の出を眺めてから食事をとり、一人静かに海と対話してから出発。  西部林道を回り、島を一周してから山に入ることになる。      西部林道を抜け永田のいなか浜で小一時間ほど、これまたのんびりとそれぞれの時間を過ごす。      その後宮ノ浦、安房を経て淀川登山口に向かう。  少し小さめの45Lザックを持参していたため、個装に加えて団装も詰めると、サンダルとパンが入りきらずにザックの脇にくくりつける。  そして、いよいよ屋久島の山、森、沢の世界へと向けて、登山口を出発した。
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