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ここに富士山での高山病についての論文があります↓
 
「富士山における急性高山病に影響を及ぼす要因」富士山研究第7巻(2013)
堀内雅弘・遠藤淳子・Thomas Jones・山本清瀧・荒牧重雄
 
(以下、要旨から引用)
富士山における急性高山病発症の危険因子として、富士登山経験の少なさは、急性高山病の発症と重症度の双方に強く関係していた。
さらに、体水分量調節機能も、急性高山病の重症度を関係している可能性が示唆された。
 
英文の部分を読んでないので細かいところまでは分かりませんが、「高山病の重症度とSpO2(経皮動脈血酸素飽和度)との間に関連は認められなかった」と書いてあります。
 
これは従来、私が富士山で高山病対策としてアドバイスしている内容と共通する点です。
 
端的に言うと、国内の4000m以下の標高では、酸素欠乏が高山病の主因ではないということです。
 
 
富士登山経験が少ないと高山病になりやすい
 
この論文では、富士登山経験が少ないことがマイナス材料となっていますが、私自身も、3000m級の登山経験がある方は高山病にはなりにくいと思っています。
 
よくよく考えれば、3000m超えの経験がない初心者の方が3776mもある富士山にいきなり登れば、高山病が発症しやすいのはある意味当たり前なことです。
 
かと言って、事前に3000m級の山に登るとなると、富士山よりも行程が長かったり難易度が高いので難しいのも事実です。
 
ですから、初めて富士山に登る時は軽度の高山病になって当然として、心構えをもっておく必要があります。
 
 
 
ではどう登ればいいのか?
 
もっとも注意するべきことは、軽い頭痛程度の「軽症」に留めることです。
 
私たちガイドですら、油断していると軽い頭痛や頭が重たい程度の症状は出ることがあります。
 
しかし、高所に慣れていますので、決して重症化はしません。
 
高山病は最悪の場合、行動不能になったり、命に関わるので、そういった重症化を防ぐことが肝心なのです。
 
 
そこでまずは、気圧の低い高所で酸素をしっかり体に取り込むポイント、
 
・高所に適した呼吸(吸うよりも吐く方に力を入れる)をして歩く
・会話が出来る程度のゆっくりしたペースで登る
 
この2点を押さえて歩くだけでも、体への負担が大きく軽減できます。
 
 
しっかり水分補給、しっかりトイレ
 
息苦しくなれば誰しも呼吸に注意するのは簡単なのですが、難しいのが水分補給です。
 
普通の登山なら水分不足は単純に疲れの要因の一つでしかないので、標高の低い山を練習で歩く分には水分補給の重要さを体感できません。
 
しかしながら、高所での登山の際には高山病の大きな要因になっているのです。
 
 
また、登山に慣れていないと、夏山で暑い中汗をかきながら登山をし続けるという経験も少ないです。
 
そのため長時間の登山で自分自身の体からどの程度の水分が失われるのか、という経験値も持っていません。
 
さらに高所では汗だけでなく呼気からも水分を失います。
 
ですから、低山とは比べられないほどの標高差を登り、大きな負担がかかる運動を長時間行うことで、体の中の体液バランスが崩れていってしまうのです。
 
これが富士山をはじめ3000m級の登山特有の現象だと言えます。
 
 
<体液バランスが崩れる>
 ↓
<循環機能が不調になる>
 ↓
<高山病重症化>
 
 
重症化は女性に多い
 
重症化するケースは私の経験上女性の方が多いです。
これは、やはりトイレを我慢するせいだと思います。
 
富士山ほどトイレが多い山はないですが、それでも混雑時は並ばなければならなかったり、都会の快適なトイレではないので使用を敬遠することで、トイレ回数がどうしても減ってしまうのです。
 
 
長時間の歩行で体内に疲労物質が溜っている状態では、尿として体外に排泄する必要があります。
 
ですが、水分補給が不足していると体は尿として排泄する水分を調整して、尿の排泄量を減少させます。
 
そのため、水分補給が不足すればするほど、疲労物質を体外に排泄できなくなってしまうのです。
 
 
だからこそ、しっかり水分をとって、頻繁にトイレに行くのは立派な高山病対策なのです。
 
汗として失った水分を補うだけでは不十分で、2-3時間おきに排尿できる十分な水分を摂取しておく必要があるのです。
 
 
重症化に多い、悪心と嘔吐
 
富士山で高山病が重症化した方に「悪心と嘔吐」が多いです。
 
特に天気が良くて暑い日、発汗が多い条件で起こりやすいように思います。
 
これは、長時間の登山で生じた乳酸が排泄されずに血液内に留まりつづけ、さらに、発汗で体液バランスが崩れて血液が濃くなり、乳酸性アシドーシス(血液の酸性化)が進行していると思われます。
 
症状が酷いと、吐き気が止まらず、水分も受け付けない状態に陥ります。
水分補給が出来ないと、吐き気がおさまるまで何も出来ません。
 
この症状は厳密には高山病とは異なりますので、標高を下げても、酸素吸入をしても症状が改善しない可能性が高いです。
 
ですから、こういう状態に陥らないように、水分補給をするしかないのです。
 
 
体液バランスは目に見えない
 
体液バランスは目に見えず、水分の過不足は自覚しにくいです。
 
高所の特徴として体が浮腫(むく)みやすいというのがあります。
これは筋肉の疲労、ザックや登山靴による締め付けの影響もありますが、水分不足も要因の一つです。
高所に登って浮腫んだら水分不足を疑ってください。
 
負荷の強い運動を行うと体内では筋肉への血流量が増え、相対的に内臓への血流が減ります。
 
これは水分補給の不足、体液バランスの崩れと重なって内臓(特に腎臓)に負担をかけるのです。
フルマラソンを完走できるような心肺機能が強い方でも、高山病になることがあるのですが、その理由がここにあります。
 
 
海外の高山病と日本の高山病
 
海外の高峰と比較すると富士山は標高が低く、また登山初心者が多く登る山です。
同じ病名ではありますが、両者における高山病は症状と原因は違うのではないかと思っています。
 
ですから海外の高峰登山で培われた登山医学的な知識よりも、富士山ではもっと運動生理学的な知識が活用できると思っています。
 
 
以上、私が経験に基づいて情報収集をした内容をお伝えしました。
医学や運動生理学の専門家ではないので、是非専門的な視点からアドバイスを頂ければと思っています。

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